基板作製して、ケースに収めて…の後というわけで、3回目の本記事ではGND周りの考え方と配線の話題で。
前の記事でも触れましたが、GND周りも含めた配線の仕方で音質は変わってきます。聴感上でも分かる程にSN比が変わるので、この段階で気を抜かないようにしましょう。
これまた分かっている方は当然考慮している事項ですが、回路図からでは読み取れない事でもありますので、あまり深く考えていなかった方も多いと思います。
というわけで、今回は配線の仕方をネタにしてみました。GNDの取り扱いについての理論的な話については奥が深すぎてサッパリですので、素人工作レベルで気をつけるポイントの解説となります。
これまでの工程はこちらから。
- 第一回(安全性向上のための周辺回路)
- 第二回(基板の配置とケース加工)
- 第三回(GND周りと配線)…本記事
GND周りの注意点
GNDのループを避ける
オーディオ機器同士の接続でも注意する点なのですが、当然ながらケース内配線でも気を付けないといけないポイントです。
一般に公開されているヘッドホンアンプ回路は大抵不平衡回路ですので、GNDは左右共通になります(デュアルモノ仕様にでもしない限り)。また、バランス対応に改造しない限りはヘッドホンもGNDは共通となります。
ということで、まず気をつけるのは入力端子となります。ごく普通のRCAケーブルで接続する場合、L・R端子にGNDが分かれてしまっています。厳密には、この時点で既にGNDループが生じています。ですので、これ以上ループを大きくしない為に、アンプ側への入力直後にGND同士を接続してしまったほうがよかったりもするのですが。なお、アナログボリュームを使用する場合は、この例のようにGNDを一元化しておいたほうが悩まなくて済むでしょう。
今回は、電子ボリュームの音声GNDを左右独立に配線している関係で、入力端子~電子ボリューム~音声回路という経路はGND線が2本並列になってしまいます。対処法ですが、ループを形成する輪が大きい程影響が大きくなるので、並列しているラインを束ねたり、絡めたりしましょう。
この対処法は、機器同士を接続するRCAケーブルでも同様です。比較的安価な市販品の多くは並行ケーブルになっています。これなら問題は少ないのですが、自作品や高級品などでケーブル2本組になっている場合は、そのまま繋ぐとループを形成する場合があります。ケーブル同士を絡めるなり束ねるなりしてループにならないようにしましょう。L・R端子のどちらかについてGNDを接続しないという方法もありますが、前段機器とのGNDが未接続になってしまうと異音や機器の故障原因になりかねないのでオススメはしません。
一方、出力側についてはアンバランス出力なので3接点になります。出力端子へのGND線は1ヶ所で接続するようにしましょう。本記事で紹介した実体配線図で制作した場合、GNDをLR両側から取れるようになっていますが、接続するのは片方にした方が良いでしょう。GND電位にはほぼ差がありませんので、両方繋いでもループを形成するというデメリットしかありません。
ケースへの接地
GNDループで見落としがちなのは、ケースを介したGNDループです。メタルケースの場合、入出力端子に非絶縁型の品を使うとケースへの接地点が増えてしまいます。これが原因でGNDループになりがちなので注意しましょう。少なくとも入力側の端子は絶縁型の品をオススメします。非絶縁品しかない場合、紙やクリアファイルなどを使って絶縁スペーサーを自作する…という手段もあります。
ケースへの接地点ですが、GND電位が揺らがない点から取りたいところです。今回のHPAでは、分圧後のデカップリングコンデンサ通過後、または音声出力端子から接地するのが良いでしょう。手っ取り早いのは非絶縁型の出力端子を使用し、ここをケース接地点とする事です。
ケーブルについて
使用するケーブル
太くてシールド処理されている、音響用の高級ケーブルを…と考える方もいると思いますが。個人的には製作がやりやすい、程々の太さのケーブルを使えば十分だと思います。UL規格などの難燃性な被覆のケーブルを使うと、ハンダ付けした時に被覆が溶けたりせず、作業性が高いでしょう。
ということで、今回は以下の品を。音声系だけちょっとこだわってみましたが、普通の工業用電線でも良いと思います。オヤイデあたりの機器内部用音響ケーブルでも良いのでしょうが…。
- 電源系…AWG22なごく普通の撚り線
- 音声系…L-4E6Sの中身(AWG24位の撚り線)
- LED等 …AWG26の撚り線
以上、全てシールド無しのケーブルです。もちろん、シールド付きでも構いませんが、ケーブルが太くなる分取り回しは悪くなります。シールドケーブルを使う場合は、一点接地するように注意してください。
末端処理
ケーブルの末端ですが、各種端子側は直接ハンダ付け、対基板側はコネクタ式としてあります。基板交換やメンテナンスの容易さ重視ですね。取り付けるコネクタですが、入手性と価格、大きさなどからXHコネクタがオススメです。次に2550コネクタ(QIコネクタ)でしょうか。XHコネクタの方が大きさ、値段とも控えめ。どちらを使う場合もコンタクトピンとハウジングだけでOKです。ポストは汎用ピンヘッダで十分。XHコネクタは千石電商で入手するのが安くてオススメ。
これらのコネクタですが、コンタクトピンを圧着する際に専用工具が必要です。ラジオペンチでも何となく取り付けられますが、確実に信頼性の高い圧着を行うために専用工具を使いましょう。オススメはエンジニアの「PA-09
他のやり方としては、「ピンソケットにケーブルをハンダ付け」とか「基板に直接ハンダ付け」などがあると思います。やりやすい方法で処理してください。
ノイズ対策
シールド線を使う必要はありませんが、無駄に長くせず「必要十分な長さ」のケーブルを使うようにしましょう。あまりに長いとその分ノイズを拾う可能性があります。また、対になるケーブル同士は捻りましょう。ツイストペアにすることで、外部ノイズの影響を受けづらくなり、ノイズの放出も抑えられます。単純な方法ですが、かなり明確な効果があります。
以上の様な事に気をつけるだけで、何も考えずに作製した場合よりも明らかにノイズが減少します。ちゃんとした機器でS/N比を測定するまでもなく、耳で聞き取れるレベルの変化があるでしょう。しっかり作製すれば、高感度イヤホンでも残留ノイズが聞こえないレベルになります。今回作製したアンプも、手持ちで一番感度が高いSuper.fi 4(115dB/mW・29Ω)を使っても残留ノイズが聞き取れないレベルに仕上がりました。
今回のHPAですが、各種部品、特にオペアンプに高級品を奢らない限り、1万円以下で製作できるでしょう。オペアンプを除いて計算すると、基板3枚とも約1800円位。分圧にNJM4556AD、DCサーボ、電子ボリュームにOPA2134、利得LME49720、バッファLM6172位にすると大体8000円程度で収まります。
もしよろしければ、ちょっとしたステップアップとして作ってみてください。
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